参考:胃がん
- 監修:
- 北海道医療大学 名誉教授
- 浅香 正博 先生
参考:胃がんとピロリ菌の関係
胃がんとピロリ菌
(Uemura N. et al.: N Engl J Med. 2001 ;
345(11) : 784-9 より作図)
胃がんになった人の割合が、ピロリ菌に感染している人は
2.9%でした。
胃がんとピロリ菌は密接に関係しているといわれています。
1994年にWHO(世界保健機関)は、ピロリ菌を「確実な発がん因子」と認定しました。これは、タバコやアスベストと同じ分類に入ります。
ピロリ菌の感染が長期間にわたって持続すると、胃の粘膜がうすくやせてしまう「萎縮」が進行し、一部は腸上皮化生となり、胃がんを引き起こしやすい状態をつくりだします。
また、胃潰瘍、十二指腸潰瘍や胃炎などの患者さんを対象としたわが国の調査では、10年間で胃がんになった人の割合は、ピロリ菌に感染していない人では0%(280人中0人)、ピロリ菌に感染している人では2.9%(1246人中36人)であったと報告されています。
※現在、保険適用でピロリ菌の検査・除菌療法を行うことができる疾患は決められています。
八板 弘樹 他:胃と腸 2014;49(6):863-73
また2014年の報告では、胃がんの手術を受けられた患者さんのうち、ピロリ菌に感染していなかった人の割合は1.3%だったと報告されています。
胃がんを予防するためにピロリ菌を除菌した方がよい?
ピロリ菌を除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことができる可能性があります。早期胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者さんは、除菌をしなかった患者さんと比べ、3年以内に新しい胃がんが発生した人が約3分の1だったと報告されています。
2013年よりピロリ菌感染胃炎に対する除菌療法に保険が適用され、それ以来、除菌療法を受ける人の数が急増し、2020年までに約1,000万人が除菌されたと考えられています。その結果、わが国において胃がんで亡くなった人が減少してきました。2010年には50,136人であったのが2020年には42,318人になったと報告されています。
WHO(世界保健機関)の国際がん研究機関は、ピロリ菌除菌に胃がん予防効果があることを認め、各国ごとにその戦略をたてるよう勧めています。
(Fukase K. et al.: Lancet. 2008 ; 372(9636) :
392-7 )
早期胃がん治療後、ピロリ菌を除菌することで、
除菌をしなかった患者さんと比較して3年以内の
新しい胃がんの発生率は約3分の1でした。
Asaka M, et al.:Cancer Sci. 2020;111(10):3845-53
Asaka M:Helicobacter Res. 2021;25(2):209-11より作図
ピロリ菌感染の長期経過
参考
分化型胃がんと未分化型胃がんは、顕微鏡で見たときにがん細胞の形や並び方に違いがあります。
胃がんとピロリ菌と食事
一般にがんを予防するためには食事、環境および生活習慣に留意することが必要とされています。
それをわかりやすく解説したものとして公益財団法人がん研究振興財団より「がんを防ぐための新12か条」(外部サイトに移動します)が2011年に提案されました。これは、1978年にまとめられた「がん予防の12箇条」を、日本人を対象とした疫学調査や、科学的に妥当な研究方法で明らかにされた証拠をもとに検証し、新たに提案されたものです。
この新12か条で胃がんについては、9「ウイルスや細菌の感染予防と治療」として胃がんの発生の重要な因子の一つと考えられているピロリ菌についての記載が加わっており、ピロリ菌に感染していれば除菌療法を含めて、主治医へ相談することが勧められています。
胃がんと食事についてはとくに、5「塩辛い食品は控えめに」6「野菜や果物は不足にならないように」が参考になると思われます。
がんを防ぐための新12か条
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―目標―
たばこを吸っている人は禁煙をしましょう。吸わない人も他人のたばこの煙を避けましょう。
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―目標―
たばこを吸っている人は禁煙をしましょう。吸わない人も他人のたばこの煙を避けましょう。
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―目標―
飲む場合は1日当たりアルコール量に換算して約23g程度まで(日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度)、飲まない人、飲めない人は無理に飲まないようにしましょう。
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―目標―
* 食塩は1日当たり男性7.5g、女性6.5g 未満、特に、高塩分食品(たとえば塩辛、練りうになど)は週 に1 回以内に控えましょう。
*野菜や果物不足にならないようにしましょう。
* 飲食物を熱い状態でとらないようにしましょう。
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―目標―
* 食塩は1日当たり男性7.5g、女性6.5g 未満、特に、高塩分食品(たとえば塩辛、練りうになど)は週 に1 回以内に控えましょう。
*野菜や果物不足にならないようにしましょう。
* 飲食物を熱い状態でとらないようにしましょう。
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―目標―
* 食塩は1日当たり男性7.5g、女性6.5g 未満、特に、高塩分食品(たとえば塩辛、練りうになど)は週 に1 回以内に控えましょう。
*野菜や果物不足にならないようにしましょう。
* 飲食物を熱い状態でとらないようにしましょう。
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―目標―
たとえば、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60 分行いましょう。また、息がはずみ汗をかく程度の運動は1週間に60 分程度行いましょう。
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―目標―
中高年期男性のBMI(体重kg/身長m2)で21~27、中高年期女性では21~25の範囲内になるように体重をコントロールしましょう。
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―目標―
地域の保健所や医療機関で、1 度は肝炎ウイルスの検査を受けましょう。
機会があればピロリ菌感染検査を受けましょう。
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―目標―
1年または2年に1回定期的に検診を受けましょう。検診は早期発見に有効で、前がん状態も発見できます。
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―目標―
やせる、顔色が悪い、貧血がある、下血やおりものがある、咳が続く、食欲がない、などの症状に気がついたら、かかりつけ医などを受診しましょう。
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―目標―
科学的根拠に基づくがん情報を得て、あなたに合ったがんの予防法を身につけましょう。
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公益財団法人 がん研究振興財団 「ーがんを防ぐための新12か条ー2020」
塩辛い食品は控えめに
久山町研究注)では、ピロリ菌感染者で、萎縮性胃炎を有している人について検討したところ、食塩を多く摂取している人ほど胃がんの発生が多かったと報告されています。
まずは、ピロリ菌を除菌し、食事は野菜や果物をとり、塩分を控えることで、生活習慣病や胃がんの予防対策を行いましょう。
注)1961年から福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8,400人)の住民を対象として行われている疫学調査
野菜や果物は不足にならないように
野菜や果物には、カロチノイドやビタミンCなどの発がんを抑制するといわれる成分が豊富に含まれています。WHO(世界保健機関)は「野菜・果物をほぼ確実に胃がんのリスクを軽減するもの」としていますので、野菜・果物は少なくとも毎日1回は食べたほうがよいと考えられます。
胃液中のビタミンCは、ピロリ菌の感染者では減少していますが、除菌に成功すると通常の値に復帰することが報告されています。つまり、ピロリ菌による慢性胃炎があると、胃がん発生を予防する働きのあるビタミンCが胃液中に分泌されにくくなり、胃がん発生の可能性が増すことになります。野菜・果物を多くとっても、ピロリ菌に感染していては、十分な胃がん予防効果が発揮できないともいえます。
米国に移住した日系1世の胃がん発生率は、本国に比べて25%少なく、日系2世になると50%も減少することが知られています。胃がんの発生には遺伝要因より、環境要因のほうが重要とされています。
興味深いことに、ブラジルへ移住した日系人とは、胃がんの発生率に変化は見られませんでした。その原因は、ブラジルへ移住した人は、米国へ移住した人に比べて、漬け物やみそ汁をとる日本の習慣が維持されているためと説明されています。
※詳しくは、「胃の病気とピロリ菌」(著:浅香 正博、中公新書)をご参照下さい。